2011年4月8日金曜日

Mademoiselle Boonen の家

この家はベルギーのアントワープに住んでいた頃の私の家でした。


古い商店街の角に建つ家。
2階の塔が特徴的でした。

でも一度もここには住んだことがありません。

建物に恋に落ちてしまってどうしても自分のものにしたかった。
将来この家に住むのが夢でした。

でも、20代前半だった当時はとてもローンの返済ができるようなお給料なんてもらっていませんでした。

にもかかわらず、ダメもとで銀行と相談してみたら恐ろしいことに、すぐにOKをしてくれたのです。 両親の保証も、頭金も不要。建物を担保にすれば全然問題ない、と。

ここまでの話、ちょっと怪しいですよね。 
いったい何処の銀行が大学を出たてのインテリアデザイナーの卵になんかそんなお金を貸すのか、と思いますよね。

ベルギーでは古い建物を買い、その一部分に住みながら他の部屋をアパートに改造し、その家賃収入でローンの返済をしていく若い人たちが多くいます。
もちろんお金がないので改造は自分たちの手でやります。

家賃収入のすべてが毎月のローンにいってしまうので一見あまりメリットがないような話ですが、ある意味で自分たちの将来のための投資でもあるのです。
今すぐは利益がなくても、自分の家を持つことができ、将来に向けて計画ができるのです。 20年間のローンの返済が済むころはまだ40代。
それがちょうど今年にあたるはずだったのですが残念ながら日本に帰ってくる前に家は売ってしまいました。 

しかし、あれだけ愛していた家を簡単に手放せたのは、私と同じぐらいその家に対しての情熱を持っていた人が「どうしても売って欲しい」と言ってきたら。
この人なら大切にしてくれる、と安心して手放せたのです。

当時は1階を店舗として貸し、お花屋さんがテナントになってくれました。家の周りにはいつもお花がたくさん置いてあって素敵でした。

2階はリビング、ダイニングキッチン、1ベッドルームとバスルームのあるアパート。近くの大学の学生さんに人気のある部屋でした。

3階は屋根裏のロフト付きの、若いカップルにぴったりのペントハウス。
本当は自分たちがそこに住むはずだったのですが、まだローンが厳しかった時期だったのでしばらくの間は貸し出して自分たちは近くの小さなアパートを借りていました。ちょっとの間だけの我慢しよう、と。

この家は1800年代に建てられたもの。かつては薬局として使われていたそう。その証拠になったのが屋根裏部屋に発見した多くの宝物。

リフォームするために片付けていたところ、100年分のほこりをかぶって眠っていた大量の薬の瓶やガラス容器、さまざまな道具や店舗で使われていたと思うガラスと木製のショーケースが見つかったのです。

薬屋さんで使われていた古い瓶。
棚は裏と表の両方がガラスなのでお店のショーケースだったのに違いありません。

 さらに、部屋の傍らには1920年代のペットショーの表彰状のようなものが何枚も丸まって置いてありました。ドッグショーとキャットショーの両方。きっと大の動物好きの人がこの家に昔住んでいたのでしょう。

キャットショーの表彰状。
当時のベルギーのアール・ヌーボっぽいデザインがおしゃれ。
こっちはドッグショー。
Petits Chiens と書いてあるので小型犬のショーだったのでしょう。

言葉はフランス語。アントワープはベルギーのフラマン語圏にあるのですが、昔の上流階級の間ではフランス語で話をしていたらしい。きっと当時はペットショーというのはお金持ちの娯楽のひとつだったのかもしれません。

表彰状に記載されている名前はMademoiselle Boonen。 
Mademoiselleなのでもしかしたら薬屋さんのオーナーのお嬢さん? それとも最後まで動物と一緒にこの家で過ごした独身女性薬剤師? 勝手に色々なシナリオを想像してしまいます。

Boonen さんの猫 のミッツィーちゃんは2等だったそうです。

Boonenさんの大切なペットの表彰状を飾るためのぴったりなフレームが見つかるまでは何年もかかりました。 今は東京の我が家に飾ってあり、時々それを見ながら、Boonenさんがどれだけワンちゃんと猫ちゃん達をあの家で可愛がっていたかを今でも想像したりしています。

Boonenさん、大切なペットの表彰状が遠い日本という国まで渡っていくとは想像もしなかったことでしょう。 でも同じ動物好きの私が大切に飾っているのでご安心ください!